取締役が負う民事上の責任

 取締役は、取締役会に出席して経営方針を決定します。このため、取締役会において法令や定款に違反する内容が決議され、その決議が実行されて会社に損害を与えた場合、取締役は民事上の責任を負うことになると思いますが、具体的にどのような責任を負うのでしょうか。

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 法令や定款に違反する行為により会社に損害を与えた場合、その行為を行った取締役は、会社に対し損害賠償責任を負うことになります。このほか、取締役会の決議に賛成した取締役についてもその行為をなしたものとみなされますので、この取締役も実行した取締役とともに連帯して責任を負うことになります。
 会社の実質的所有者である株主で構成される株主総会では、会社の基本的な事項についての意思決定がなされるのみです。したがって会社の業務執行については、取締役を選任し、取締役全員によって構成される取締役会が業務執行の意思決定をするとされています。そして、その意思決定にもとづいた業務執行自体は、取締役会において選任された代表取締役により行われます。
 このように、各取締役個人としては、業務執行自体の意思決定、業務執行行為自体を行う権限を有せず、合議体の構成員として業務執行の意思決定をするとともに、他の取締役の職務の執行について監督する権限を有するにすぎません。
 取締役は、会社との関係においては、委任・準委任の関係にありますので、会社に対し善良な管理者としての注意義務を負っています。善良な管理者としての注意義務(善管注意義務といわれます。)というのは、取締役が職務を行うにあたり取締役としての職業、地位、知職を基準として通常要求される注意を尽くして職務を行う必要があるというものです。
 また、取締役は、法令および定款の定めならびに株主総会の決議を遵守して会社のために忠実にその職務を執行する義務を負っています。この会社のために職務を忠実に執行すべき義務というのが、取締役の忠実義務といわれるものです。
 この善管注意義務と忠実義務の関係については、2つの義務を別個の義務ととらえる考え方もありますが、忠実義務は善管注意義務を具体化し、株式会社において一層明確にするために注意的に規定したものであり、善管注意義務とは別個の義務を規定したものではなく、内容的に差異があるものではないとするのが判例、多教説です。
 取締役が、これらの義務に違反し会社に損害を与えた場合、債務不履行にあたることになります。しかし、このような民法における一般原則である債務不履行だけでは、会社の業務執行の意思決定に関与し、大きな権限を有する取締役の会社に対する責任問題が処理しきれない面が生じます。このため、商法は、取締役が会社に対して負う責任を特別に規定しています。
 商法266条1項5号は、取締役が法令または定款に違反する行為をなしたときは、会社がこうむった損害額につき賠償する責めに任すと規定しています。この法令には、取締役の善管注意義務、忠実義務を定める規定も含まれると解されています。したがって、取締役が善管注意義務、忠実義務に違反し、会社に損害を与えたときは、取締役は、商法266条1項5号の法令、定款に違反する行為により会社に損害を与えたものとされ、会社に対し損害賠償責任を負うことになります。さらに、その行為が数名の取締役によってなされた場合には、その数名の取締役が連帯して責任を負うことになります。
 法令、定款に違反する行為が取締役会の決議にもとづいてなされた場合は、その決議に賛成した取締役はその行為をなしたものとみなされますので、実際に行為を行った取締役とともに連帯して損害賠償責任を負うことになります。
 取締役が決議に賛成したかどうかについては、その取締役の責任を追及する者において立証することになりますが、取締役会の審議の状況は外部からこれを知ることは容易ではなく、立証が困難な面があります。しかし、取締役会の審議事項については、議事の経過の要領およびその結果を議事録に記載し、出席した取締役、監査役が署名することが法律上強制されています。そこで、この取締役会議事録により取締役が議事に賛成したか否かの立証の困難さを救済するため、取締役会に参加しながら取締役会の議事録に異議をとどめなかった取締役は、決議に賛成したものと推定されるとしています。したがって、異議をとどめたとの記載のない取締役は、自ら決議に反対したことを立証しなければ損害賠償責任を免れないことになります。
 この法令、定款に違反する行為の取締役の責任は、過失責任とされていますので、過失のない取締役は責任を負わないことになります。
 連帯責任を負うことになった取締役は、各人がそれぞれ会社に対し、会社がこうむった損害を賠償することになります。この場合、この責任を負う各取締役間の負担部分、求償関係については商法上の規定はありませんが、各取締役の責任原因、寄与度に応じて負担部分が生じることになり、負担部分をこえて会社に賠償した取締役は、他の責任ある取締役にその負担部分の限度において求償するということになります。

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取締役が負う民事上の責任
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