取締役の一般義務

 このたび取締役に選任されることになりましたので、取締役というのは会社に対してどのような義務があるのか知っておきたいと思います。取締役は一般にどのような義務を負っているのでしょうか。

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 取締役には、会社経営の責任者として商法上個別的な責任が課されていますが、これらを基礎づけるものとして、一般的な義務が課されています。これが、善管注意義務と忠実義務といわれるものです。
 商法の趣旨からすれば、会社経営の中心は取締役会ということになります。したがって、責任強化という面から、取締役会の構成員である取締役には重い責任が課されています。具体的な責任については、商法266条に規定されており、その主な責任は次のとおりですから、取締役にはこれらの責任に対応した義務があるということになります。
 1. 違法配当責任
 2. 利益供与禁止の責任
 3. 役員貸付責任
 4. 自己取引責任
 5. 法令・定款違反行為責任
 取締役には商法上、個々的な義務が課されていますが、これらの義務の基本となる一般的義務として、善管注意義務と忠実義務があります。
(1)善管注意義務
 会社と取締役との関係は、委任に関する規定に従うとされていますので、民法の委任の規定が適用されます。その結果、取締役は委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって会社の業務を処理する義務を負うことになります。
 ここで、善管注意義務とは、取締役としての事務処理に必要な教養、知識、社会的に要求される能力などに応じて、一般的に要求される注意義務ということになります。
(2)忠実義務
 忠実義務とは、法令および定款の定めならびに総会の決議を遵守し、会社のために忠実にその職務を遂行する義務のことをいいます。
 忠実義務については、善管注意義務と内容を異にするという少教説もありますが、判例・通説は、忠実義務は善管注意義務を具体的かつ明確にしたにとどまり、善管注意義務と別個な義務ではないとしています。
 取締役には商法上具体的な義務が課されていますが、その基礎になっているのがこの善管注意義務と忠実義務です。したがって商法では、具体的な義務以外に、抽象的ですが、法令・定款違反の行為をしてはならないと定めています。これは取締役には一般的な義務として善管注意義務と忠実義務があることを示しているわけです。したがって、取締役の一般的な義務の具体的内容となりますと、義務違反が問題とされた判例を通じて、個別的に考えざるをえないことになります。
 個々の事例
(1)八幡製鉄政治献金事件
 取締役の忠実義務に関する最も有名な事件は、八幡製鉄政治献金事件です。一審の東京地裁では、「政治献金は、一般社会人が社会的義務と感ずる性質の行為に属するとは認めることができず、定款違反かつ忠実義務違反の行為である」としました。
 しかし、最高裁は、「その会社の規模、経営実績その他社会経済的地位および寄付の相手方など諸般の事情を考慮して、合理的な範囲内において、その金額等を決すべきであり、右の範囲をこえ、不相応な寄附をなすがごときは取締役の忠実義務に違反するというべきであるが、八幡製鉄の場合は合理的な範囲をこえていない」としました。
 当時の八幡製鉄の資本金は380億円、純利益が65億円であり、自由民主党に対し350万円の献金をした事案です。
(2)経営判断の誤り
 X会社は、製品の唯一の納入先であったA会社からの発注が途絶えて、事実上休業状態となったとき、X会社の取締役Yらは、急速にスクラップ化する製品製造のための機械を他に売却し、その結果、あいた工場の一部を他に賃貸するなどの方策をとったが、結局会社財産は費消されてしまった。X会社はYらに対し、解散の手続など適宜の方策をとらなかったのは善管義務・忠実義務に違反するとして損害賠償を求めた。
 以上のような事案で、大阪地裁はYらのとった措置はやむをえなかったとして、善管義務・忠実義務違反はないとしました。
 このような経営判断の誤りを事後に裁判所が判断するのは非常に困難が伴います。なぜなら、会社経営は専門的・技術的なものであり、裁判所は経営の専門家ではないし、また会社経営はつねにある程度の危険が伴うものだからです。したがって、複数の選択肢のうち、経営者が最良の方法を選択しなくとも、善管義務・忠実義務に違反するとはいえません。
(3)その他の判例
 1.会計処理を誤り余計な納税をしたが、それが税務当局の回答と監査法人の指導に従ったものであったため、忠実義務に違反しないとしたもの、2.人材派遣会社の取締役が自己の利益の為にいわゆる人材の引き抜きを行った行為が忠実義務違反であるとしたものなどがあります。

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