法務上の役員の範囲
取締役や監査役をはじめ、様々な肩書きの者が会社の役員として経営に携わっていますが、法人税法では役員として取り扱われる者の範囲をどのように定めているのでしょうか。
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取締役、監査役、理事、監事及び清算人などのほか、次の者も役員と捉えています。
1. 使用人以外のもので法人の経営に従事しているもの
2. 同族会社の使用人のうち特定株主等に該当する者で法人の経営に従事しているもの
法人税法は、過大役員報酬の損金不算入(法法34条)、役員賞与の損金不算入(渋渋35条)、過大役員退職金の損金不算入(法渋36条)など、法人が支給する役員に対する給与に関し、損金算入の制限規定を設けています。
すなわち、過大役員報酬の損金不算入規定は、使用人の給与が使用者との交渉により適正な順に決定されるのに対し、役員報酬の場合は、とりわけ同族会社においては、その額をある程度自由に決定し、これをチェックすることが事実上行われていないという事情があるためであり、役員賞与の損金不算入規定は、役員賞与は利益処分であるとの考えに基づくものと説明されています。また、過大役員退職金の損金不算入規定は役員報酬のそれと同様の趣旨によるものです。
このように、役員に対する給与に税法上の制限を設けているため、まず役員の範囲を明らかにする必要があります。
役員とは、法人において、業務の執行、業務・会計の監査などの権限を持つ者をいい、公益法人や協同組合などの理事及び監事、人的会社の業務執行社員、物的会社の取締役及び監査役を総称し、また、特別法に基づく法人では、総裁、副総裁、理事長、理事及び監事などを役員と定めています。
役員をその職務により分類すると業務担当役員と監査担当役員の2種があり、株式会社を例にとれば、業務執行担当役員として取締役が、監査担当役員として監査役がこれに該当します。
ところで、業務執行とは、法人や組合などの団体において、その事業に関する諸般の事務を処理することをいい、特に株式会社では、業務執行についての意思決定機関である取締役会と、その執行機関である代表取締役とが分化しているところに特徴があります。
一方、監査とは、主として監察的見地から、事務若しくは業務の執行又は財産の状況等を検査し、その正否を調べることをいいます。監査は、業務執行等の適正を確保することを本来の目的としておりますので、国、地方公共団体、特殊法人、私法人等の団体は、通常、法律により監査の任に当たる機関を設けることとされています。
商法、民法の中に役員の用語は使用されていません。商法では株式会社の業務執行機関として取締役会を置き、その構成員を取締役とし(商法260条)、取締役及び使用人の業務監査及び会計監査を行う機関として監査役を置いています(商法274条・281条2項)。また、民法でも法人を代表する理事を置くことを要すとし(民法52条・53条)、監事の設置は任意とされています(民法58条)。これらの法律以外にも中小企業等協同組合法、農業協同組合法などの組織法にも役員に関する規定があります。
法人税法では、法人が役員に対して支給した給与につき、法人の所得の計算上、損金の額に算入することを制限していますが、これを実効あるものにするため、制限の対象となる役員の範囲を、一般に考えられている者よりも広い概念で捉えています。
すなわち、法人税法上役員とは次に掲げるものをいいます(法法2条15号、法令7条)。
1. 通常の役員・・・取締役、監査役、理事、監事及び清算人
2. 通常のみなし役員・・・法人の使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限ります。以下同じ。)以外の者でその法人の経営に従事しているもの
3. 同族会社のみなし役員・・・同族会社の使用人のうち、特定株主等に該当する者で、その会社の経営に従事しているもの
このうち、上記1.は、商法その他の法人設立根犯法に定められている役員です。
上記2.は、上記1.の通常の役員と同様の地位、職務を有し、その法人の経営に従事している者をいいます。
上記3.は、同族会社だけが対象とされる点で上記1.の通常の役員や上記2.の通常のみなし役員と異なります。同族会社の使用人で特定株主等に該当する者は、たとえ職制上の地位は使用人であっても、実質的に経営に従事していれば役員と認定することになります。
なお、通常の役員、通常のみなし役員及び同族会社のみなし役員といった呼称は、一般にその用法が広く採用されているわけではなく、便宜上の呼称であることをあらかじめお断りしておきます。
取締役や監査役のように商法等の規定により役員とされているもの以外にも、法人にはこれらの役員と同様の地位を有し、その行う業務からみて他の役員と同様に実質的に法人の経営に従事していると認められる者も数多く存在します。法人税法では、このようなものも役員に含めるものとしています。
通常のみなし役員には、具体的には次のような者が該当します(法基通9-2-1)。
1. 総裁、副総裁、会長、副会長、理事長、副理事長、組合長、副組合長で取締役又は理事となっていない者
2. 合名会社又は合資会社の業務執行社員
3. 人格のない社団等における代表者若しくは管理人
4. 定款等において役員として定められた者
5. 相談役、顧問その他これに準ずる者で、その法人内における地位、その行う業務等からみて他の役員同様に実質的に法人の経営に従事していると認められるもの
同族会社とは、「株主等の三人以下並びにこれらの同族関係者の有する株式等が会社の発行済株式等の50%以上に相当する会社」をいいます(法法2条10号)。
「同族判定株主である限り、自己及びその同族関係者の持株を通して、会社経営にある程度の支配権を持ちうる立場にある」と判示した判例がありますが、同族会社は少数の株主グループにより支配されており、支配株主グループの会社経営に与える影響は極めて高く使用人といえども役員と同様の地位を有する者も少なくなく、実質課税を目指す税法としては、この点に着目して役員の範囲に含めたと考えられます。
同族会社のみなし役員の認定要件は次の3つです。
1. 同族会社の使用人である
2. 特定株主等である
3. 経営に従事している
一般に「職制」とは、「職場での職務の分担に関する制度。会社や工場などで、労働者を管理する役付の職員。管理職。またその職にある人。」と理解され、使用人兼務役員に関する通達において、使用人としての職制上の地位に関し、「支店長、工場長、営業所長、支配人、主任等法人の機構上定められている使用人たる職制上の地位をいう。」と、その解釈を明らかにしたものがあります。
同族会社のみなし役員の認定要件の1つに特定株主等に該当することが挙げられています。ここでいう特定株主とは、次の1.から3.のすべてに該当する者をいいます(法令71条1項4号)。
1. その会社の株主グループについて、その持株割合の最も多い者から順次その順位を付した場合にその使用人が次の株主グループのいずれかに属していること、第1順位の株主グループの持ち株割合が50%以上である場合におけるその株主グループ、第1順位及び第2順位の株主ダループの持株割合を合計した場合にその持株割合がはじめて50%以上になるときにおけるこれらの株主グループ、第1順位から第3順位までの株主グループの持株割合を合計した場合にその持株割合がはじめて50%以上になるときにおけるこれらの株主グループ
2. その株主の属する株主グループの割合が10%を超えていること
3. その株主(その配偶者及びこれらの者の持株割合が50%以上である他の会社を含みます。)の持株割合が5%を超えていること
「経営に従事」することに関して、法人税法上特に明文規定はありませんが、判例では法人の主要な業務執行の意思決定に参画することをいうとされています。
したがって、専ら他の役員の指揮、監督の下に業務に従事しているものは経営に従事しているものとは認められず、その場合、通常の役員以外の者はいずれも法人税法上の役員とはなりません。なお、法人の主要な業務として具体的には次の業務が考えられます。
1. 販売計画(商品の種類、販売先、販売数量等の決定)
2. 仕入・生産計画(仕入商品、仕入先、仕入数量・金額、製品の種類、製品の数量等の決定)
3. 資金計画(取引銀行、資金の借り入れ・返済、新株式・社債等の発行の決定)
4. 人事政策(従業員の採用、トップ人事、給与・賞与等の額の決定)
5. 設備計画(店舗、工場、生産設備等の決定)
取締役、監査役等のいわゆる通常の役員は、役員の業務を全くしておらず、むしろ使用人の業務に専念している場合であっても、その実質を判断するまでもなく、形式的に役員とされます。
通常の役員以外は、通常のみなし役員及び同族会社のみなし役員のどちらも、その認定にあたり最も重要な要素として「経営に従事」しているか否かが挙げられます。
経営に従事しているか否かは、経営に関する意思決定に参画しているかによって判断されます。
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