代表取締役が行方不明になったとき

 当社の社長(代表取締役)が突然行方不明になりました。会社設立時より1人で実権を握ってきた人なので業務にも支障をきたしています。定款では代表取締役の人数について定めていませんが、今後どのような措置を講すればよいでしょうか。

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 株式会社において、取締役の人数は3名以上と定められていますが、代表取締役の人数についてはとくに定めがありません。しかし代表取締役は会社の必要的機関ですから定款で自由に定められるとはいっても少なくとも1名は選任されていなければなりません。しかも代表取締役は会社を代表し業務執行を担当する機関ですから、これなくしては実際上も会社が成り立たないことにもなりかねません。
 本問のように、行方不明となった代表取締役が会社にとってたった一人の代表取締役であった場合には法律上も実際上も会社にとって憂慮すべき事態です。今後どうすればよいかは極めて切実な問題と言うべきでしょう。
 このように代表取締役は会社にとって不可欠な存在ですから、法律または定款で定めた員数を欠くに至ったときは、必要があれば裁判所に請求して代表取締役の職務を行うべき者を選任するよう請求できることになっています。これを「仮代表取締役」といっています。
 この仮代表取締役が選任されるのは「員数を欠くに至ったとき」とされていますから、何らかの事由で代表取締役が退任し、これにより員数をみたさなくなった場合がこれにあたるわけです。
 一般に代表取締役の退任事由としては、1.辞任、2.任期満了、3.解任、4.法律または定款所定の欠格事由の発生、5.死亡、6.破産、7.禁治産宣告、があります。しかし今回の会社の例のように行方不明というだけではただちに退任となるわけではありませんから、行方不明を理由に仮代表取締役を選任するわけにはいきません。学説のなかには行方不明、長期療養など事実上職務執行のできない場合を退任事由に含める見解もありますが、通説的見解ではないようです。
 それでは行方不明自体を理由とできないとしても行方不明であることから前述の何らかの退任事由に該当するとは考えられないでしょうか。
 行方不明というなかには、何らかの事故に巻き込まれた場合もあるでしょう。しかしいかに死亡の蓋然性が高いとしても死亡が確認されないうちに死亡と扱うことはできません。失踪宣告の効果が発生した場合は死亡とみなされますが、失踪宣告は危難に巻き込まれたことを理由とする場合であっても最低1年間の生死不明を要件としますから、ただちにこれによるわけにはいきません。
 また行方不明となり会社へも出てこないで何らの連絡もしない以上、辞任の意思を表明しているとも理解できそうです。しかし登記実務上辞任を理由とする登記中清にあたっては、当該代表取締役が署名または記名押印した辞任届か、株主総会ないし取締役会で口頭で辞任の意思表明をした場合であればその旨の記載のある議事録を添付する必要があります。そうであるとすると、黙示の辞任の意思表示があるとして辞任の扱いをするわけにもいきません。
 それでは代表取締役が行方不明となり、職務を放置していることを理由に解任することができないでしょうか。
 一般に代表取締役の解任は取締役会でいつでもなしうると解されています。この場合問題となるのは、取締役会の招集権を定款などで代表取締役にかぎっており、二次的招集権者の定めを置いていない場合、招集をどのようにするか、という点と、代表取締役に解任の意思表示が到達する必要があるか、という点です。
 しかし取締役会の招集権は本来各取締役にありますので、もし代表取締役が行方不明となって招集権を実現することができないのであれば各取締役の招集権は復活すると解してよいと思われますし、代表取締役解任の効果は解任によりただちに生じ、当該代表取締役への告知を要しないというのが判例ですから、結論として解任は可能というべきでしょう。
 このような前提を取れば仮代表取締役の選任もできると考えられます。
 また会社の定款ではとくに代表取締役の人数について定めていないとのことですので、現状のまま新たに代表取締役を選任することもできましょう。もし定款で人数を一人に限定しているのであれば、まず定款変更が必要なことは言うまでもありません。
 さらに行方不明となっている代表取締役を解任することも、新たに代表取締役を選任することも事情があってできないというのであれば、支配人を選任するということも考えられます。支配人は営業主にかわってその営業に関する一切の裁判上または裁判外の行為をなす権限を有する商業使用人ですから、その選任により実際上代表取締役のかわりをつとめることはできると思います。ただし、支配人の選任は取締役会で行わねばなりませんから、前述取締役会招集権の問題はこの場合にも生じます。

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