定款所定の人数をこえた役員の選任
先の会社事業において貢献した者を次の株主総会で取締役に選任しようと思っています。しかし、当社の定款では「取締役は10名以内とする」旨の規定があり、すべての者を選任した場合10名をこえることになりますが、さしつかえありませんか。
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会社に功績のあった者を役員に選任しその功績に報いる、といった例はよく見受けられるところです。後に続く人たちのはげみにもなり、ひいては会社の利益にもなることですから、当の本人のみならず会社にとっても良いことと言えます。
しかし、会社の場合功労者をすべて取締役に選任すると、定款所定め人数をこえてしまうとのことです。情において忍びないことかも知れませんが、残念ながらこのままでは全員を取締役に選任することはできない、といわざるをえません。
商法は取締役の人数について「3人以上」を要求し、最低限を定めてはいますが、最高限についてはふれていません。最低限3人を要求するのは、会議体としての取締役会を機能させるためにはこの程度の人数は不可欠と考えたからだと言われています。しかし会社の規模、業態により、どの程度の人数が良いかは一概に言えないことですから、最高限はとくに定めないことにしたのです。
そして私的自治の原則から、最低限3名の商法上の要求をみたすかぎり、定款において取締役の人数の最低限および最高限をどのように定めようと、さらには定めないことすら会社の自由とされているのです。
具体的に何人ぐらいが妥当かということも、会社の事情により千差万別ですから、一般的には答えられないことですが、あまり多すぎてはそれこそ「船頭多くして船山に上る」ということになりますから、いくら最高限が自由だと言ってもおのずから常識的な人数というものはあるでしょう。本問の会社ではこの最高限を10名と定款で定めているのですから、最低限は商法上の3名、最高限は定款上の10名の範囲で取締役を選任すべきことになります。
したがってこれをこえて選任することができないのは当然のことです。
それでは、本来許されないはずの定款所定の人数をこえた取締役選任決議をしてしまった場合、その選任決議の効力はどうなるのでしょうか。
古い判例は、このような選任決議は無効だと解しています。
しかし昭和56年の商法改正の際、株主総会決議取消の訴の規定が整備され、「決議ノ内容ガ定款二違反スルトキ」が決議取消の訴の事由となることが明らかとなりました。定款所定の人数をこえた取締役の選任決議がこれにあたることはもちろんです。したがって、現在では株主、取締役、監査役は株主総会決議の日から3ヵ月以内にこの訴を提起し、決議を取消すことができることになっています。
本問の会社が功労者をすべて役員にしたい事情は理解できないわけではありません。ある者を役員にし、ある者をしないというのは人情に照らしてもどうかと思います。しかし、だからといって後日決議取消の訴の対象となるような選任決議を強行するようなわけにはいかないでしょう。訴訟に巻き込まれるようなことにでもなったら、せっかくの功績に報いようとしたことが裏目に出てしまう結果となります。
会社がどうしても候補者全員を取締役にしたいというのであれば、法律上人数に最高限の定めがあるわけではありませんから、定款を変更し取締役の人数を増やせば、全員の選任ができるようになります。
ただし、定款は会社にとって憲法ともいうべき重要なきまりですから、通常の決議と異なり、発行済株式総数の過半数にあたる株式を有する株主が出席した株主総会で、その議決権の三分の二以上の多数の賛成を得なければ変更することはできません。
もし定款変更ができないのだとすれば、既に在職する取締役にやめてもらうなどしなければ当初の計画どおり全員を取締役とするわけにはいきません。それもむずかしいというのであれば一部の候補者を監査役にするなどの方法も考えられると思いますので検討してみてはいかがでしょうか。
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