親子会社の取締役兼任と自己取引

 当社の取締役BがP社の社長を兼任することが内定しました。P社は当社がその60%の株式を所有する子会社です。当社とP社の間で取引を行う場合、自己取引の規制をうけることになるのでしょうか。

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 会社の取締役Bが、会社が過半数をこえる株式を有する子会社P社の代表取締役を兼任している場合、Bとしては会社に対しても、P社に対しても取締役としてその忠実義務を負っていますから、原則として同社間での取引について自己取引に関する規制をうけ、会社の取締役会の承認をうける必要が出てきます。承認をうけずに自己取引を行った場合、会社に対する責任を生じ、損害賠償を請求されるおそれもありますので注意が必要です。
 取締役が自己または第三者のために会社と取引をなすことを取締役の自己取引といい、このような自己取引をなすについては取締役会の承認を要するものと商法上定められています。
 取締役は会社に対し職務を誠実に執行すべき忠実義務を負っていますが、反面業務遂行に関して強大な権限を持ち、会社の事築上の機密にも通じているため、ともすればその地位を利用して自己または第三者の利益を図るおそれがないとは言えません。そこでこれを防止する意味で取締役会の承認のないかぎり自己取引をなしえないものとしたのです。
 この点は取締役一般についての規制ですから、たとえ平取締役であっても規制を免れることはできません。
 また、親子会社ではあっても、P社が100%出資子会社ではなく、会社との実質的利害対立が考えられる場合ですので、自己取引の規制の適用が排除されるものではありません。
 そうであるとすると、本問のケースで会社とP社との間で取引を行うのであれば、会社の取締役会の承認を要することとなります。またBが、会社の代表取締役からの委任により、会社とP社の取引について会社を代理する場合には、会社の取締役会の承認だけではなくP社の取締役会の承認も必要になります。
 ところで自己取引として商法は、会社の製品そのほかの財産の譲渡または譲り受けること、会社から金銭の貸付をうけること、会社が取締役の保証をすること、会社と取締役との利益相反行為、を挙げています。
 しかし自己取引の規制は、会社の利益を害することを防止しようとするものですから、形式上ここに列挙したものに該当するように見えても会社を害するおそれのないものは規制の対象外と考えられます。その意味で会社または取締役による既存債務の履行、取締役から会社への無利息無担保の貸付などは自己取引の対象外といえるでしょう。判例にも同旨のものがあります。
 取締役会の承認は原則として当該取引ごとに個別的に得る必要があります。したがって事前に白紙委任的な包括的承認をなすことは許されません。
 しかし取引の相手方、目的物、数量、価格、金額、場所あるいは取引の期間などにつき具体的な事実を示したうえであらかじめ合理的な範囲を定めて概括的な承認を与えることは、上述の白紙委任的な包括承認と異なり許されると解されています。
 なお自己取引をした取締役は遅滞なくその取引の目的物、数量、価格、期間、場所などの重要な事実につき取締役会に報告すべきものと定められています。
 このように見てくると自己取引の規制についてはかなり厳重な定めとなっていることにお気づきと思います。
 しかし会社間の自己取引が規制されるのは、会社の取締役が第三者である相手方の会社を代表して取引する場合です。たとえ相手方の会社の代表取締役を兼任していても現実に相手方を代表するのでなければこの規制の対象外です。ご質問のケースでP社の代表取締役にBとともに会社の取締役ではない別の人がなっていて、その人がP社を代表するのであれば自己取引の規制はうけません。その意味で複数代表取締役は自己取引規制を回避する1つの方策と言えると思います。

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