子会社の取締役兼任と競業取引
私は現在X社とその子会社であるY社の社長を兼任しています。両社は同種・類似の事業を行っていますが、XY間の取引についても競業取引の規制をうけることになるのでしょうか。
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親子会社とはいえXY両社は法律的にはまったく別の人格ということができます。自然人の親子でも別人格であるのと同じことです。
一般にある会社の取締役が他の会社の取締役を兼任している場合には、取締役はそれぞれの会社に対し忠実に職務を遂行する責任を負っています。その場合取締役が自己または第三者のために会社の営業の部類に属する取引を行うときには商法の定める競業取引の規制をうけます。この点は親子会社間の取締役の兼任といえども両社が法律的に別人格である以上、基本的に同じことです。
取締役が自己または第三者のために会社の営業の部類に属する取引をなすことを、取締役の競業といい、これについては取締役会の承認を得るべきものとして商法上規制が加えられています。
取締役は、たとえ平取締役といえども会社の業務執行に関し強大な権限を有するとともに、営業上の機密にも通じていますから、競業を自由にするとその地位を利用して会社の取引先を奪うなど会社の利益を犠牲にして、自己または第三者の利益を図る懸念があります。そこでこれを防止する意味で競業についてはあらかじめ取締役会の承認を得るべき旨規制を加えることとしているわけです。取締役は本来会社に対し忠実に職務を遂行すべき義務を負っていることからいって、当然のことと言うべきでしょう。
商法が規制する競業取引とは、1.自己または第三者のために、2.会社の営業の部類に属する取引をなすことです。
1.の、自己のためにする競業とは、取締役個人が自ら当事者として会社と取引する場合などがこれにあたり、第三者のためにする競業とは、取締役が第三者たる会社の代表者として競業取引をするような場合などがこれにあたります。
これに対し2.の要件にあたるかどうかは、原則的には定款に定められた会社の目的を基準として考えることになりますが、かならずしもそれにとどまらず、定款の目的たる事業と同種または類似の業務を対象とする取引で会社と実際に競争を生ずるものを含む一方、たとえ定款所定の目的の範囲内の事業であってもその会社が実際に営業を行っておらず競争関係を生じないものは除かれる、と実質的な意味に解されています。
本問のケースはX社の立場からみてもY社の立場からみても、自社の取締役が第三者である他社のために競業取引をすることになります。したがってX社、Y社それぞれの取締役会の承認を得ないかぎりこのような競業取引はできないことになります。
そしてこの取締役会の承認を得るには、その取引について取引の相手方、目的物、数量、価格、期間、場所など承認をすべきか否かの判断資料となる重要な事実を開示すべきことが求められています。
この点に関連して、親会社の取締役がその会社と同種の営業を目的とする子会社の代表取締役となるような場合に、その子会社の営んでいる事業の種類、性質、規模、取引範囲などの重要な事実を開示して代表取締役になることの承認をうければ、後日代表取締役として行う個々の取引についての承認は必要ないという考えも有力に主張されています。子会社の代表取締役への選任の際、競業取引についての包括的な承認がなされた、というのがその根拠です。
なお、子会社であるY社が、X社の100%出資子会社の場合、Y社を代表して、X社との間で競業関係になる取引をしても、その経済的効果は、実質的にX社に帰属すると考えられますから、このような場合には、競業禁止義務は問題になりません。
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