海外子会社の取締役を兼任できるか

 企業活動の国際化にともない海外に子会社を設立するケースが増えてきましたが、日本の親会社の取締役や監査役がその海外子会社の取締役を兼任することはできるでしょうか。

スポンサーリンク

 今日の企業活動は国際的な広がりを見せています。海外での取引が増加するにつれて企業は現地での活動拠点を現地法人とすることが多くなっています。
 このように、日本の企業が企業活動の国際化にともなって、日本企業に支配的な存在として設立する現地法人を、海外子会社と称しています。このような海外子会社は、外国法にもとづき外国で設立される会社でありながら、日本の親会社の子会社としての実質を備えていますから、いねば法人としての二重国籍をもっているとも言えます。このような関係から、外国法と日本法の適用関係が問題とされることが多いようです。
 海外子会社は、外国に存在する会社ですから、その設立および存立の準拠法である当該外国法の規定にしたがうのは当然のことです。そこでこの問題は第一義的には親会社監査役と子会社取締役との兼任を禁ずるかどうかについて当該外国法がこれを禁じているかどうかにかかることになります。
 しかし一方、海外子会社はいねば二重国籍の法人として、日本の親会社の子会社としての実質も有するわけですから、親会社監査役と過半以上の株式または出資口数を出資している子会社の取締役との兼任を禁じている日本の商法の規定の適用も問題となります。
 この点については、親会社監査役が子会社取締役を兼任したのでは一定範囲で監査権限を持っている子会社に対する監査の実が挙がらないとして商法の適用を肯定する見解と、商法が規定する子会社とは日本法によって設立された株式会社または有限会社にかぎるのであって、海外子会社は日本法でいう子会社ではないとして商法の兼任禁止の規定の適用を否定する見解とが対立しています。しかもこの点について判断した判例も見当たりません。
 しかし、日本法で規定する「取締役」「監査役」という概念自体かならずしも万国共通というわけではありません。もし日本の商法の適用を認めたときには、当該の外国の取締役、監査役と日本のそれとが同一か否かなど、多くの極めて複雑な問題が生じてしまいます。そのため、無用の混乱を回避する意味からも商法の兼任禁止規定の適用を否定する見解のほうが相当と思われます。
 前にも述べたように、海外子会社はあくまでも外国に存在する外国法人ですから、この点についても、設立および存立についての準拠法である当該外国法の定めているところによるのは当然です。
 同時に前に述べたと同様の意味で日本親会社の子会社であるという面から、日本法の適用も問題となりますが、そもそも日本の商法では親会社取締役と子会社取締役との兼任についてはとくに禁じていません。したがって兼任自体の可否については日本の商法上、問題になる余地はありません。しかし商法は2つ以上の会社の取締役を兼任する場合などについて、取締役の競業と自己取引に規制を加えています。そこでこれらの規定の適用について海外子会社の場合どう解するかの問題が発生することになります。
 競業規制の適用、競業規制とは、取締役が自己または第三者のために会社の営業の部類に属する取引をなすにあたっては、原則として取締役会の承認を必要とするという規制です。取締役が業務執行についての強大な権限を有し、営業の機密にも通じていることから、これを無制限に許したのでは、その地位を利用して会社の取引先を奪うなど自己または第三者の利益を図り、会社の利益を害する危険性が高いからです。しかし形式的にはこれにあたるように見えても、親会社と100%出資子会社の間ではこのような心配をするだけの利害対立がないので、この規制の対象外とされています。また、両社の営業地域がまったく競合しない場合にも、このような利害対立の危険がないことから、規制の対象外となっています。海外子会社は100%出資子会社で、しかも親会社の営業地域と競合しない場合がほとんどですから、結果的にこの規制をうける場合は少ないように思われます。
 さらに自己取引規制も、取締役が自己または第三者のために会社と取引をなすについては取締役会の承認を必要とするもので、これも競業規制同様、取締役の地位利用による会社利益の侵害を予防するものです。しかし、これについても親会社と100%出資子会社との間では実質的な利害対立がないことから適用を否定するのが一般的です。したがって海外子会社が100%出資子会社であることが多い以上、この場合も実際に規制をうける例は少ないと考えられます。
 以上から明らかなように、親会社との兼任取締役がいる海外子会社が100%出資子会社でなく、かつ地域的にも親会社と競合するような場合には、競業禁止や自己取引の規制が問題となる可能性はあります。

copyrght(c).会社役員の法務.all; rights; reserved

会社役員とは
発起人とは
取締役と代表取締役
業務担当取締役とは
社外取締役とは
取締役の肩書の付け方
相談役・顧問とは
取締役会長とは
使用人兼務取締役とは
執行役員とは
常勤役員と非常勤役員の区別
監査役とは
社外監査役とは
社内監査役と社外監査役
会計監査人とは
検査役とは
会社役員は労働者か
会社役員と社会保険の適用
会社役員と労働保険の適用
労災保険の特別加入制度とは
取締役と監査役との関係
取締役会と代表取締役・取締役との関係
会社役員と株主総会との関係
会社役員と株主との関係
株主総会と取締役会との関係
役員規模はどのように定めるか
会社役員の資格に制限はあるか
在任中の取締役に欠格事由が生じた場合
破産会社の会社役員は役員欠格者となるか
会社役員を株主に限定できるか
未成年は会社役員になれるか
破産者は会社役員になれるか
法人は会社役員になれるか
公務員は会社役員になれるか
懲役刑の執行猶予中の者は会社役員になれるか
会社役員を日本人に限ってよいか
監査役は取締役を兼任できるか
親会社取締役と子会社監査役の兼任はできるか
親会社監査役と子会社取締役の兼任はできるか
海外子会社の取締役を兼任できるか
ニ社の監査役を兼任できるか
子会社の取締役兼任と競業取引
親子会社の取締役兼任と自己取引
独禁法による役員兼任の制限
会社役員の人数に制限はあるか
監査役の増員
定款で取締役の人数を定めるとき
取締役の人数が少なくなったとき
監査役の人数が少なくなったとき
社外監査役を欠いたとき
定款所定の人数をこえた役員の選任
代表取締役が行方不明になったとき
取締役の選任方法
取締役の任期の定め方
取締役の職務
取締役の一般義務
取締役が負う民事上の責任
取締役会とは
株主総会の性格と機能
役員の報酬はどのようにして決めるか
有限会社の役員の人数や資格に制限はあるか
税法上の役員とは
交際費の判断基準
寄付金の経理の方法
創業祭等の協賛金
交際費と福利厚生費の区分
創立記念パーティーに要した費用
使途不明金の意味
法務上の役員の範囲
役員退職給与と使用人に支給する退職金との取扱いの差異