親会社監査役と子会社取締役の兼任はできるか
当社の監査役Aを75%当社出資の子会社の取締役に選任しようと考えていますが、親会社の監査役に子会社の取締役を兼任させることはできるでしょうか。
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子会社は、親会社の指揮を受ける立場上、親会社から役員、従業員などの人的派遣を受けることがよくあります。しかし、親会社の監査役が子会社の取締役を兼任することは商法276条が明文をもってこれを禁じています。その趣旨とするところは、監査役の職務の独立性を保持するところにあります。親会社の取締役との兼任だけでなく、子会社の取締役との兼任をも禁ずるのは、子会社の取締役が親会社の取締役の指示に従う立場にあるため、監査役と子会社取締役を兼ねていたのでは監査の公正を欠くこと、親会社の監査役は商法274条ノ3により子会社に対する営業報告請求権、調査権が認められているところ、子会社の取締役を兼任していたのではその権限の適正な行使を期待できないからだと説明されています。
ところで商法276条は、「監査役ハ会社又ハ子会社ノ取締役又ハ支配人其他ノ使用人ヲ兼タルコトヲ得ズ」と定めています。そこでいう「子会社」とはどの範囲をいうのでしょうか。
前述のように、本条が商法274条ノ3の営業報告請求権、調査権等の権限を担保しようという趣旨を有する以上、ここでいう「子会社」は274条ノ3の権限の及ぶ範囲の子会社を指し、したがって商法211条ノ2第1項・3項にいう子会社(簡単に言えば、発行済株式総数の過半数の株式を親会社に持たれている会社)を意味することとなります。本問のケースがこれにあたることは言うまでもありません。
また「支配人其他ノ使用人」の範囲についても若干解釈の余地がありますが、代理権を有する商業使用人のみならず、工場長、技師など商業使用人以外の使用人も含まれると解するのが多教説です。ご質問のケースは子会社の取締役との兼任ですから276条に該当することに疑問の余地はありません。
それでは商法276条の規定に違反して、親会社の監査役が子会社の取締役に就任してしまった場合、その選任行為の効力はどのように考えたらよいのでしょうか。また事実上行われた親会社の監査や子会社の業務執行の効力はどうなるのでしょうか。
理論的に考えますと、親会社監査役が子会社取締役に選任されたときは、そのまま就任したのでは商法違反となってしまうわけですから、その選任は従前の地位を辞任することを停止条件として効力を有し、選任を受けた者は新たに選任された地位に就任することを承諾したときは、従前の職を辞する意思を表示したもの、と考えるべきでしょう(多数説)。この考え方によれば、子会社取締役に就任後なお事実上親会社の監査を行ったとしても、それは辞職した前監査役の監査であって、監査役の監査ということができないのですから、監査として法的に効力を有しないことは言うまでもありません。
これに対し商法276条違反の選任を受けた取締役が事実上なした業務執行行為については、同条が会社内部を規律する規定であるとして、第三者となした法律行為が無効となるものではないと判示した判例があります。
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