会社役員を日本人に限ってよいか
当社の定款には「取締役、監査役は日本国籍を有するものに限る」という規定があります。しかし最近、相当数の外国人が就労するようになり、この規定が外国人に対する差別的取扱いになるのではないか心配ですが、いかがでしょうか。
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今日の日本の社会において、外国人の労働者をどのように遇するかについて、さまざまな議論を生じていることはご承知のとおりです。他方、資本の自由化という流れをうけて、大企業を中心に外国人株主が増加し、その勢力を背景として役員への選任を求める動きも増しています。
このような動きに対して、日本の企業では会社役員を日本人に限定する旨の定款規定を置いている例が多いようです。この定款規定ははたして有効なものと言えるのかどうか、まさに今日的な問題として提起されているわけです。
憲法は、近代決の大原則である法の下の平等を保障していますが、この保障はすべての人を平等に扱うという趣旨であり、かならずしも自国民だけに平等を保障するものではありません。そうであれば外国人も法律的には日本人と同様の扱いをうけることが保障されるべきだとも考えられます。
しかし今日の国際社会において、依然として国家という社会体制を単位として法制度が整備されていることも認めざるをえない現実です。そうであれば常識的な範囲のものであるかぎり、外国人を日本人と区別して取扱うことも認められてよいと考えられます。現行の我が国の法律において、相手国が日本国民に同じ権利を保障するときにのみ日本国もその国の国民に対しこれを保障する、との相互主義をとる例が多く見られますが、このような扱いも国際慣行に根拠を持つものとして前述の常識的な範囲の差別ということができると思います。
一般論としての外国人に対する法的保障が前述のようなものであるとして、会社役員を日本人に限定する旨の定款規定は有効と認められるのでしょうか。
商法は、会社役員の適材をできるかぎり広い範囲から得るようにとの趣旨から、役員を株主に限定する旨の定款規定を置くことを禁じています。ところが日本人に限定することを禁ずる規定は置いていません。したがってこのような定款を置くことは少なくとも商法の明文の規定には抵触しないわけで、前述のような日本人と外国人の差別として常識的なものといえるかどうか、言い換えれば合理的な差別として許容される私的自治の範囲かどうか、にかかるわけです。
かつて、定款変更により会社役員を日本人に限定する旨の定款規定を置いたという事例について、その変更決議の効力が争われた事件で、裁判所は、この定款変更決議は憲法の保障する法の下の平等に反する不当な差別ではないとし、私的自治、株式会社自治の原則の範囲内にある、合理的な外国人に対する差別的取扱いであって有効である旨判示しました。現代の国際経済社会も各国の国民経済を単位とし前提として営まれている以上、日本の各国内企業がその企業内における外国人の企業活動に対してある程度の制約を加えることは、各企業の自主的な判断に任されるべきことがらであることを理由としています。
学説の多くもまたこの判例の見解を支持しています。
もっとも会社設立時につくられる原始定款において役員を日本人に限定する旨の規定を置く場合は別として、既に外国人株主がいる場合において、定款変更によって役員を日本人にかぎるとする規定を置くときにはむずかしい問題を生じます。
この問題については、通常の定款変更決議のほか外国人株主の同意を要するとする説、通常の定款変更決議によることも可能であるが、外国人株主の持株比率が発行済株式総数の4分の1以下であることを条件とする説、通常の定款変更で足り、外国人株主の保護は種類株主に関する商法345条を類推するとする説、通常の定款変更決議で足りるとする説など様々な考え方に分れているのが現状です。この点については、取締役に選任されることは、株主の固有権ではないから、通常の定款変更決議で足りるとした裁判例があります。
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