法人は会社役員になれるか

 このたび業務提携を結んだM社へ役員を出向させることになりました。当社自身が役員になったほうが信用、経営能力からみてメリットがあると思われますが、いかがでしょうか。

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 現代の経済社会において、会社をはじめとする法人の存在意義はきわめて大きいと言えます。大企業においては、会社の株主も法人などのいわゆる機関株主が多くを占めるようになっています。そのような現実からすれば法人自身が取締役または監査役として会社の経営または監査に関与しても良いのではないか、と考えられましょう。なぜなら株主として会社に資本を拠出している以上、経営、監査についての発言力が保証されるのは当然とも言えるからです。
 昭和56年の商法改正において、取締役、監査役の欠格事由が明文上規定されるに至りました。ところが、法人はその欠格事由の中に含まれていません。そこで法人がこれら会社役員になれるかどうかは、もっぱら解釈上の問題とされているのです。
 これを否定する考えは、会社役員と会社の関係は委任関係であって、その職務は個人的信頼関係を基礎とすること、会社役員の職務は自然人でなければできないことが多いこと、法人には会社役員として負うべき民事刑事の責任能力に欠けるところがあること、などを根拠としています。
 しかし、今日の通説的見解は法人が会社役員になることができるとする立場です。
 この見解は、その根拠として、法人がその目的の範囲内で設立中の会社の発起人たりうることは判例も認めているところであり、そうであれば設立後の会社において取締役、監査役になれない理由はないこと、会社更生法では法人が更生管財人となることができる旨規定され、法人の組織力、信用を会社更生に生かす方策がとられていることからすれば通常の会社において会社役員になれないとする理由はないこと、法人たる会社役員は経営能力、監査能力において自然人に比し優ることはあれ、劣ることはないこと、財政的に堅実な法人のほうがむしろ自然人よりも経済的信用は厚いこと、法人株主が増加している現実からすればこれを認めるべき実際上の必要性の高いこと、などを理由に挙げています。
 確かに立法当初の考えでは法人が会社役員となるような事態は考慮されていなかったのでしょうが、今日のジョイントベンチャーのように、複数の会社のみが株主になっているような会社形態も現れている以上、法人役員を認めたほうが現実的と言えるでしょう。今日これを認める見解が有力なのはそのような背景があるからと思われます。昭和56年商法改正の際、法人を欠格事由の中に加えようとの意見が採用されなかったのも、同様の理由からと言われています。
 もっとも取締役、監査役に選任しても商業登記が認められなければ、対外的にその立場を主張することはできません。ところが今日の商業登記実務においては、法人を取締役、監査役として選任した旨の登記をすることについては否定的な取扱いがなされており、このような登記を受け付けた先例もありません。したがって、現状では、法人を役員に選任しても法務局の窓口でその就任登記を拒絶されるものと思われます。法人の役員適格性を認める見解が、前述のようにかなり有力になっていることを考えれば、いずれ近い将来においてこの取り扱いが変更される余地がないとは言えませんが、現在のところ上記のような取り扱いである以上、事実上法人を役員とすることは不可能です。したがって当面のところは、法人の担当部門の者のなかから適任者と目すべき自然人を選び、これを取締役、監査役に選任することが現実的と言えるでしょう。

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