在任中の取締役に欠格事由が生じた場合

 当社の取締役Aが準禁治産宣告をうけ、取締役の欠格事由に該当することになりましたが、Aの取締役としての地位はどうなるのでしょうか。

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 精神障害のため判断能力が不完全な心神耗弱者や、前後の見境なく財産を使ってしまう浪費者に該当する場合、本人その他一定の親族などからの申立により、家庭裁判所はその者につき準禁治産宣告をすることがあります。この宣告をうけた準禁治産者は、他人の保証人となったり、不動産を処分したりするなどの、重要な財産行為を1人ではできず、それをするには保佐人の同意を得ることが必要とされています。
 このような準禁治産者が取締役など会社の役員になれるかについては、従来解釈上の争いがありました。
 というのも、準禁治産者は前述のとおり一定の重要な財産行為については単独でこれをすることができないわけですから、そのような者が他人の重要な財産に関わる会社の役員として適格とは思えないからです。しかし一方、民法は「代理人ハ能力者タルコトヲ要セズ」として、無能力者をあえて代理人に選任することも認めており、そうであればあえて準禁治産者を会社の役員に選任することも許されないわけではなかろう、という反論が可能だったからです。
 しかし前述のような点について解釈上の対立を残しておくことが好ましいわけはなく、昭和56年の商法改正の際、「禁治産者又ハ準禁治産者」が、株式会社、有限会社の取締役、監査役、清算人などの会社役員としての欠格事由に該当することが明文化されたのです。会社役員の職務執行が不適切であれば、株主、会社債権者はじめ多くの人たちの利益を害することになりますし、会社役員は会社やこれら第三者に対して重大な責任を負わなければならない立場の者であることを考慮したからです。
 そこで今日、準禁治産者を会社役員に選任することはできず、仮に選任決議がなされても商法違反の決議として無効であることは明らかです。
 それではいったん会社役員として選任後、後から準禁治産宣告をうけたときはどうなるのでしょうか。
 会社役員の欠格事由として準禁治産者を定めた趣旨は、前述のように会社役員の職務執行の影響は株主、会社債権者ら多くの人におよぶ一方、会社役員は会社及び第三者に対し重大な責任を負う立場にあることが考慮されたのですから、そのような者が役員の地位にあるのが不適当であることは、選任当初から準禁治産宣告をうけていた場合であれ、事後的に準禁治産宣告をうけた場合であれ、何ら異なるところはありません。したがって選任後準禁治産宣告をうけた場合には、Aは直ちに役員としての終任事由に該当し、その地位を失うものと考えられています。
 そして、この場合には、任期満了によって所定の役員の員数を欠いた場合などとは異なり、後任者がその地位に就くまで従来の役員が依然役員としての権利義務を有する、という商法の規定の適用もないとされています。準禁治産宣告によって、会社のその者に対する信頼関係が破れるのが通常である以上、そのような者に、たとえ限定的にもせよ役員としての権利義務を認めるのは適当でないと考えられるからです。
 それでは仮にAが代表取締役であった場合、準禁治産宣告により取締役としての地位を喪失しその結果当然代表取締役としての地位も失ったにもかかわらず、その後もAが事実上会社を代表して対外的な取引行為をした場合、その効果はどうなるのでしょうか。
 本来このような行為は、無権限者による取引である以上、その効果は無効であるはずです。しかし退任登記がなされていないうちにAが右のような取引行為をした場合には、商法12条により、会社はその行為が無効であることを、善意の第三者に主張できないことになってしまいます。仮にそのため会社の損害が生じても、会社としてはAに対し損害賠償を求めるほかないことになるのです。役員に準禁治産宣告などの事由が生じこれを知った以上、会社としては、直ちにその退任登記を済ませる必要があることは当然といえましょう。

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