社内監査役と社外監査役
大会社には、社内監査役と社外監査役とがあるそうですが、その職務や権限については何か違いがあるのでしょうか。
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社内監査役と社外監査役とは、被選任者の要件が異なることと、期待される役割が違うという相違はありますが、法律上はその職務や権限について相違はありません。
平成5年の商法改正により、大会社(資本金額が5億円以上または負債総額が200億円以上の会社)においては、監査役の人数を従前の2人以上から3人以上とし、そのうち1人以上は、その就任の前5年その会社または子会社の取締役または支配人その他の使用人でなかった者でなければならないとしました。つまり、監査役のうちの1人以上は、その会社の外部から選ばれなければならなくなったわけです。これが社外監査役と呼ばれるものです。
これに対し、これまでの大会社の監査役がほとんどそうでしたが、その会社の取締役や従業員などの内部的人材の中から選任される監査役を、社外監査役に対する意味で、社内監査役ということがあります。
大会社におけるこれまでの監査役のように、その会社の取締役や使用人であった人の中から選ばれる監査役は、会社の業務や内部事情に通じているため、監査のための調査や情報収集、そしてその分析などが迅速に能率よくできるという長所があります。しかし、その反面、現在会社の業務執行をしている取締役や使用人らは、社内監査役からみれば元の仲間や部下である場合が多く、現役員から距離を置いた客観的な監査が困難になりがちであるという問題点もあります。
そこで、監査役の中に、これまでの一定期間その会社の業務執行に関与していない社外の人材を加え、客観的・第三者的な立場からの監査を担わせることによって、会社のお目付役である監査の実行性を高めようとするのが、社外監査役制度のねらいです。
社外監査役は、その就任前5年間その会社または子会社の取締役または支配人その他の使用人でなかった者である必要があります。「就任前5年間」ですから、まる5年間より以前であれば、その会社の取締役や支配人、その他の使用人であった経歴を有していてもかまいません。また、親会社の取締役や使用人が子会社の社外監査役に就任することは、法は禁じていません。
このような要件を満たすかぎり、どのような人を社外監査役とするかは、会社(株主総会)の判断に任されています。
大会社に社外監査役を強制的に置くようにした趣旨はすでに述べたとおりですから、社外監査役には、会社内部の人的なしがらみや会社の短期的な利害得失にとらわれずに、客観的・第三者的立場から業務執行を監査することが期待されるわけです。しかし、それも、社内監査役の会社業務に精通した調査能力や情報収集能力とあいまって初めて実現できるものであると考えられます。この意味で、法は、社内監査役と社外監査役に期待する役割は違っても、両者協力してこそ、的確・公正な監査が実現できるという考え方から、両者の職務権限に差異は設けていません。
平成5年の改正では、大会社に監査役会の制度も導入しました。監査役会は、「その決議をもって、監査の方針・会社の業務及び財産の状況の調査の方法その他の監査役の職務の執行に関する事項を定める」ことができるとされています。したがって、監査役会で各監査役の役割分担なども決めることができ、その場合には、監査役は定められた分担に従って、まずその職務を行わなければなりません。
ただし、監査役会は「監査役の権限の行使を妨げることはできない」との明文規定があり、かりに監査役会で職務分担が決められた場合でも、個々の監査役は担当外の事項についても必要と思えば自ら調査し、監査することができます。ですから、監査役にそれぞれ違った役割分担が決められたとしても、両者の職務権限に差異が設けられるものではなく、あくまでも円滑な監査の職務遂行のための役割分担に過ぎません。
監査役会は、監査権限そのものを与えられたのではなく、複数の監査役が監査を行うに際しての連絡・調整機関と位置付けられる性格のものです。
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